生贄のジレンマ(上)




この六組は優しいクラスだったのだ。すべての生徒が友達を裏切ることなく綺麗な意思を持ち続けた。この光景は美しさなのだ。恐怖と不安に打ち勝ち、誰も他人を生贄に捧げなかった。
―だから、四十個の死体が並んでいた。

あらすじ

「今から三時間後にあなたたちは全員死にます。ただし生き残る方法もあります、それは生贄を捧げることです」
卒業を間近に控えた篠原純一が登校してみると、何故か校庭には底の見えない巨大な“穴”が設置され、教室には登校拒否だった生徒を含むクラスメイト全員が揃っていた。やがて正午になると同時に何者かから不可解なメッセージが告げられる。最初はイタズラだと思っていた篠原たちだが、最初の“犠牲者”が出たことにより、それは紛れもない事実であると知り…。

感想
これぞ土橋真二郎と言えるほどドロドロとした悪意に満ちた最高の作品。ラノベから解き放たれた『扉の外』とも言える。ラノベ土橋と一般土橋の違いはやはり死者が出るか出ないかだと思う。
扉の外』でも『ツァラトゥストラへの階段』でも『ラプンツェルの翼 (電撃文庫)』でもどれだけ暴力的な描写や神経の擦り切れるような描写は描いても決して人の死は描いていなかったように思う。おそらく中高生向けとしての倫理があったんじゃないだろうか。そしてこのメディアワークス文庫土橋ではその楔から完全に解き放たれている。人が死ぬどころじゃない。虐殺だ。
ラノベ時代から土橋真二郎さんの暴力描写は頭にガツンとくるものがあったけど、これらはその数段上。生徒たちの絶叫が本の中から聞こえてくるような恐ろしい作品です。

各教室から聞こえる悲鳴や鳴き声に頭が痛くなる。体育祭のリレーで七組のアンカーが転んだときも悲鳴を聞いたが、それは悲鳴と呼ぶには偽物だった。現在廊下に響く叫びは、強引に耳にねじり込まれ心臓を凍りつかせるリアルなものだ。