憎悪人間は怒らない

 

 「誰にとっても同じーー人が悪魔という言葉を使うとき、そこには悪魔はいない。いるのはただ、その人の弱さと脆さと限界だけ。そんなことは受け入れられない、という気持ちがあるだけ。他人を悪魔呼ばわりして、攻撃して、そして撃退できたとして、しかしその大元になった弱さの方はぜんぜん消えてない。当然でしょ?悪魔はその人の中にいるのであって、外にはいないんだから」

 

 

あらすじ

なぜ“製造人間”ウトセラは“無能人間”ヒノオを保護し、ともに暮らしているのか――ウトセラの能力を狙う誰もが理由を探るが、ヒノオ自身にも答えはわからない。思い悩むヒノオは、統和機構に造反し逃亡した“憎悪人間”カーボンと出会う。二人は心を通わせるが、そこにカーボン暗殺を命じられた最強人間が現れ……〈ブギーポップ〉の裏側を描く異能力者たちの対話集、待望の第2弾。書き下ろし「憎悪人間は肯定しない」収録

 


感想

 

上遠野浩平氏の久しぶりの新作、「憎悪人間は怒らない」。本作は「製造人間は頭が固い」の続編で、人間シリーズ(でいいのか?)2作目。

ブギーポップが人から進化した能力者「MPLS」を描く作品とするならば、本シリーズはその逆、人工的に生み出された能力者「合成人間」を描いています。

合成人間を主人公にした話といえば、「ビートのディシプリン」が思い浮かびますが、本作はそれよりさらに統和機構の中枢よりの話が書かれてますね。

 

「酸素は鏡に映らない」で末真和子が次の中枢と書かれてもはや何年経つかわかりませんが、その伏線を積み重ねっていっている・・・のかな?

中枢関連でいえば、オキシジェンの側近カレイドスコープに匹敵する「ノー・ブルース」という新たな?(「戦車のような彼女たち」等に出てたらすみません)能力者が登場したのが個人的には熱かったです。今後、その能力の詳細が明らかになるのかな。

 

久しぶりに上遠野浩平氏の作品を読んで思ったんですが、人物描写でキャラクターのシルエットを浮かび上がらせるのがすごくうまいですよね。

・「黒い革のつなぎ」を着た人物が出てきたら、霧間凪

・「詰め襟の学生服」はフォルテッシモ。

・やたらと悟ったことを連発する少女は、水乃星透子。

・「げぇ!フォルテッシモ!?」はパール。

今作は特にクロスオーバー的に懐かしのキャラクターがたくさん出ているので、特にそう感じました。描写でキャラのシルエットを感じるとワクワクできるので大変良いです。

 

そして本作の中心人物となる憎悪人間こと「カーボン」。彼のたどり着く結末はかなり予想外でした。本作は単品でも楽しめるような作りではありますが、「ブギーポップは笑わない」「ビートのディシプリン」シリーズは読んでおいた方がいいですね。

上記を読んできたファンにとってはかなり驚きの結末だと思います。そして、叫ぶのです。「何年越しの伏線回収だよ!!!」と。