東池袋ストレイキャッツ



どこかでだれかが笑った気がした。口笛も聞こえてきた。怒鳴り声も、猫の足音も、腐った水音さえも。コンクリートの継ぎ目から、錆びた排水口から、道行く人々のイヤフォンや靴底から。そんなどうしようもなく猥雑でいとおしい現実の夜の中で、僕はミウのギターに耳を澄ませ、涙がかわくのをじっと待っていた。

あらすじ

神様のメモ帳』『さよならピアノソナタ』の杉井光が贈る、新たな青春と音楽の物語。

ひきこもって音楽ばかり聴いていた不登校児の僕。けれど、ゴミ捨て場で拾った真っ赤なギターが僕の運命を変える。
それには、交通事故で死んだギタリスト、キースの幽霊が取り憑いていたのだ。
「俺が生きてる間に発表できなかった曲を、おまえが代わりに歌うんだよ」
幽霊に尻を叩かれ、僕は池袋で路上ライヴを始める。
そこで出逢ったのは、身分を隠して夜の街を彷徨う歌姫ミウ、それから沢山の路上パフォーマーたち。
ストリートを舞台に迷い猫たちが歌い奏でる、切なくて甘い青春と音楽の物語。


感想
杉井光先生の最新作、東池袋ストレイキャッツの感想です。

音楽を聞くことを愛し、人と接することを怠っていたため中学でいじめにあってしまった主人公、ハル。彼は中学のクラスメイトと離れるため、必死に勉強して高校を目指すも、その高校でも不登校になっています。

序盤の主人公の危うい精神描写が今までの杉井光主人公にはないような生々しい感情描写が描かれており、非常に良かったです。
ヒロインのミウとの絶妙な関係や、池袋のちょっと変だけどやさしいパフォーマーや警察官たちがいつもの杉井光らしいみずみずしい文章で描かれており、とても満足です。
本作は、音楽に関する描写が「さよならピアノソナタ」や「楽聖少女」よりも、さらに良くなっているように感じました。前半は特にそれが顕著で、かなり濃密な音楽描写が楽しめます。

元々は漫画原作として考えられていた作品の一つらしいですが、「こもりクインテット!」あたりに取って代わられたのかな?
どっちにしろこの本は杉井光先生の文章で読めて幸せだったなあって気がします。


ハル自身の家族関係の話についてはあまり語られていないので、ぜひそこまで突っ込んで続編とかもあるといいなあって思います。

例によって、杉井光先生のサイトでは各曲の解説があるので要チェックです。
音楽は稼いだ!! 東池袋ストレイキャッツ曲目解説

イラストレーターさんによるこんなイラストもTwitterにありました。この二人すげー好き。




読んだ後聞いた曲(なんとなく作品に合うと思った曲を紹介)