虐殺器官


鳥のように自由に、なんていう人もいるが、それこそ鳥は、ほんとうに遺伝子に命令されてひとつしか選べない行動をとっているだけだ。
自由とは、選ぶことができるということだ。できることの可能性を捨てて、それを「わたし」の名のもとに選択するということだ。

あらすじ

9・11以降の、“テロとの戦い”は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう…彼の目的とはいったいなにか?大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは?ゼロ年代最高のフィクション、ついに文庫化。


感想
2007年にデビューするもその後わずか2年でこの世を去った作家、伊藤計劃
彼の出した本は十に満たないのですが、彼の本は世界中で評価されています。そんな彼の残した代表的な一冊、それがこの「虐殺器官」です。

虐殺器官の主人公はシェパード大尉。
彼はどこかナイーブでありながら、秘密裏に世界中の要人を暗殺する特殊部隊に所属しています。
物語は全編通して、シェパード大尉の一人称で語られています。


物語の途中で、CEEPという言葉が登場し、作中ではこのように語られます。

CEEP、という言葉がある。幼年兵遭遇交戦可能性(Child Enemy Encount Possibility)。
そのままだ。初潮も来ていない女の子と撃ち合いになる可能性だ。
その子の頭を、肋骨の浮き出た満足に乳房もない胸を、小銃弾でずたずたにしなければならない可能性だ。

これは伊藤計劃氏の造語なんでしょうか。調べてもわかりませんでしたが、異様に頭に残る表現でした。
作中で、主人公は銃を持った子どもたちを冷静に撃ち殺していきます。
その描写はまるで地獄のように生々しく描かれます。


主人公は悪ではありません。アメリカ的な立場で言えば正義です。
彼は虐殺や悲劇を防ぐため要人を暗殺する立場にあります。
アメリカという大を守るため、発展途上国という小を守る立場です。


主人公は各国を回り、ジョン・ポールという指名手配犯を追います。
ジョン・ポールが通った国では虐殺が起こるからです。主人公は彼を追います。


きっとジョン・ポールの目的がわかった時、唖然とすると思います。
だからここでは言いません。是非読んでほしいから。
載せたい名言がたくさんあるんですが、控えておきます。
伊藤計劃の文章リズムそのままで読んだほうが、楽しめるでしょうから。


読んだ後聞いた曲(なんとなく作品に合うと思った曲を紹介)